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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2011年12月15日00時26分掲載
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【編集長妄言】反TPPで国家主義の原発推進派もいれば脱原発の排外主義者もいる 何ともねじれたこの国の論調 大野和興
いまこの国や国民が突き当たっている基本的な問題で、論調に奇妙なねじれがこのところ目立つ。それを強く意識するようになったのは、3月11日の東日本大震災からである。
現在の日本の争点は、原発、TPP(環太平洋経済連携協定)、沖縄・基地の三点に集約されるだろう。そして従来これらの争点をめぐる論調はとてもすっきりとわかりやすかった。
もちろん、いまでもわかりやすい人はいる。例えば日本経団連の米倉会長。新聞などでみる限り、同氏は「原発推進」「TPP推進」「普天間基地は米国の意向に沿って辺野古移転」でまとまっている。ちなみに、筆者自身もすっきりとわかりやすい。「脱原発」「TPP反対」「米軍基地は国外へ」と、米倉さんとは対照的なのだ。
なぜわかりやすいかといえば、それぞれの論者の価値観がすっきりとわかるからだ。原発を進め、投資と貿易の徹底した自由化を標榜するTPP推進を唱えることは、物質的な豊かさを求めて開発と成長に至上の価値を置く考え方が根底にある。その開発と成長を支えているのは圧倒的な軍事力と近年あやしくはなったが基軸通貨ドルをにぎる米国であり、それは日本にとっては日米安保を軸とする日米同盟となって存在している。日米同盟の象徴は沖縄における米軍基地の存在であるから、それを損なう辺野古移転反対などとんでもないことになる。
逆に、それぞれにノーを言う人は、環境破壊や人間の尊厳を傷つける貧富の差の拡大を抑制し、人も自然もゆったりと生きられることに価値を置き、これ以上の成長や開発はいらないと考える。だから軍事力もいらないし、軍事力に基礎を置く国家安全保障などなくてもよいと考える。したがって、沖縄に米軍基地はいらない。 では“ねじれ”とはどういうことか。これら基本的な争点でさえイエス、ノーが錯綜し、入り乱れ、単純に動きを割り切れない状況を指して、ここでは“ねじれ”と呼ぶことにする。この“ねじれ”は新聞、テレビ、出版物など既成メディアばかりでなく、インターネットを通して増幅される。むしろここに特徴がある。
具体的な事例を通して考えてみたい。京都大学准教授で、TPP反対で論陣を張っている中野剛志さんという若手学者がいる。TPP反対論で注目を浴びたのは昨年秋ごろからで、その時は経済産業省出向の助教であった。中野さんのTPP反対論はきめ細かな分析をもとに多面的かつ具体的である特徴をもち、その限りにおいて教えられるところが多い。
彼が反TPPの論客として注目されるようになったのは、インターネットテレビへの出演であった。東京メトロポリタンテレビジョンという3kwのデジタル放送を行っている東京ローカル局だが、インターネット配信で広く見られてもいる。同局の看板番組のひとつが日本を代表する右派論客西部邁氏が仕切る対談番組「西部邁ゼミナール」で、その一つ2010年12月18日の放映された。「怪談TPP 西部邁ゼミナール」に出演、評判を呼んだ。
続いて「日本文化チャンネル桜」に出演、反TPPの論客中野剛志フィーバーが起こる。チャンネル桜は、草莽テレビと称し、その目的を「日本の伝統文化の復興と保持を目指し日本本来の『心』を取り戻すべく設立された日本最初の歴史文化衛星放送局」とうたっている。市民テレビとか市民メディアと言わないで「草莽」というところにこのテレビの思いが込められている。番組はスカバーのほかインターネットを通してユーチューブでも見ることができ、インターネットという新しい媒体における日本の右派ジャーナリズムの中心の位置している。
中野さんは2011年1月5日の「経済討論TPPと世界経済の行方」や、同1月29日の「TPP問題シンポジウム」などに出演している。ちなみにグーグルで「中野剛志とチャンネル桜」で検索すると54万8000件が出てきた。
このころから中野さんは全国を講演で飛び歩く。3月には新書で『TPP亡国論』を出し、ベストセラーになった。講演先はさまざまだが、チャンネル桜系や在特会系の右翼組織が目立つのが、彼の場合の特徴だ。在特会、正式名称は「在日特権を許さない市民の会」といい、ネット右翼が表に出てきたものといってよい。在日の人たちを目の敵にし、京都では初級中級朝鮮学校に押しかけ、「スパイは帰れ」とか「キムチ臭いぞ」なとと大音声でがなりたてたりする差別・排外主義集団である。3・11以後は「原発推進」を掲げて脱原発デモにちょっかいを出したり、8月6日には広島にあらわれて「核兵器推進」を叫んだりした。在特会の掲示板を覗くと、中野さんの熱狂的フアンが多い。
中野さん本人の意向はどうであれ、右派の論壇や差別・排外主義集団が中野さんを持ち上げるのは、中野反TPP論が経済ナショナリズムを基礎に組み立てられていて、それを成り立たせる国力を自主防衛論においているからである。月刊雑誌『WILL』8月号特集「原発、私はこう考える」に登場した中野さんは、日本の安全保障から見て必要という論旨で原発推進論を唱えている。
さらに中野さんは、インターネットテレビの「ニコニコ動画」なのにもしばしば登場、「脱原発論者に浮かぶ反国家思想 左翼思想の手段に原発議論を持ち込むな」といった主張を行い自然エネルギーや電力自由化論への批判を繰り返している。
いろんな意見があってよい。そのほうが健全だ。しかし、誰とどう手を組むか、となると話は別だ。自主防衛に裏打ちされた経済ナショナリズムという閉じられた世界に引き困るTPP反対論ではなく、民衆どうしがお互いの生存権を守り合うグローバルな民衆連帯を基礎にした反TPPの運動こそが、いま大事なのだと思う。 脱原発運動の世界でも同じようなことが起こっている。経産省前に脱原発を掲げて市民運動のテント広場ができている。経産省は撤去したくてたまらないし、毎日街宣車右翼が押し掛けてきて「早く立ち去れ」とがなりたてる。そこへネオナチを標榜する行動右翼が出現、脱原発での共同を申し出た。運動側は内部討議の末お引き取りを願ったが、一部には脱原発の輪を広げるためには、という理由で一緒にやっても、という意見もあった。
反TPPや脱原発は大切だ。しかし、そのことと排外主義レイシズムと手を組むこととは別問題である。少なくともぼくは差別・排外主義者や、それらに支持される論者と肩は組みたくない。
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