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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2013年11月20日11時15分掲載
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コラム
ツールの古城 〜ロワール河とフランス・ルネサンス そしてレオナルド・ダ・ヴィンチの晩年〜
パリから南に列車でおよそ2時間のところにツール(Tours)という町がある。ここは昔から豊かな自然に恵まれ、王族らが狩りをして楽しんだ場所だったそうだ。週末、昼食を食べに来なさい、という、目下借りているアパートの大家さんの招きで出かけた。大家さんはこの町に住んでいるのだ。列車はオステルリッツというパリ市内の駅から出ている。
ツールと言えばロワール河という大河のほとりの町。古城がたくさんある。英国のロック歌手、ミック・ジャガーが買った城もあるそうだ。個人所有のものもあれば公的所有の城もある。
大家さんが案内してくれたのはアンボワーズ城だ。フランス史でも重要な歴史を持つとされる。だが、建物自体は意外とつましい印象もある。特に寝台はいかに立派といっても、現代の一流ホテルのベッドに比べるといささか小さい気がした。古城に来たことで現代の物質文明の豊かさを逆に感じさせられた。それでも城には庭園があり、チャペルがあり、城の高台からロワール河一帯が見晴らせる。しかし、残念ながら、ちょうどこの日は曇り空で、河も水かさが増し、色は濁っていた。それでも城の高台に立ってみると雲が、空が非常に近く感じられる。かつては王権は天からの授かり物だと考えられていたのだ。
アンボワーズ城は15世紀末から16世紀初頭にかけて建設された城で、「初期フランスルネッサンス様式」だとガイドブックに書かれている。当時、フランスの王族はルネッサンスの生まれたイタリアから、多くの教養人や芸術家を招いた。庭には丸く刈り込まれた植木があるが、その中に一体の胸像がある。説明を読むとレオナルド・ダ・ビンチの像だった。ダ・ビンチはこの館にどんな関係があったのだろう。
ガイドブックによると、レオナルド・ダ・ビンチはフランスルネサンスの庇護者、フランソワ1世からアンボワーズ城から徒歩3分のところにある瀟洒な館「クロ・リュセ」を提供され、さらにまた潤沢な年金と研究資金を王から与えられ、その晩年の3年間を過ごしていた。実際、アンボワーズ城の下にある道をちょっと歩くとこの館クロ・リュセにたどり着く。フランソワ1世はダ・ヴィンチの才能に惚れ込んでいたのだ。クロ・リュセにはダ・ヴィンチがフランソワ1世を夕食に招いたときの食事の部屋もある。そこには長い食卓が据えられている。芸術、人生、軍事、哲学・・・さまざまなことがこの部屋で話されたのだろう。
ダビンチが亡くなったのはこの館だった。館の周りにはダビンチの菜園があり、思索のための散歩道もたっぷりある。林と小川もある。ちょっとした1つの世界だ。「食欲がないときは食べてはいけない」などのダ・ヴィンチの言葉が紹介されている。ダ・ヴィンチは菜食主義者だったそうだ。
クロ・リュセはダ・ビンチの記念館として一般公開されている。ここにはまた、ダ・ビンチが設計・考案したパラシュート、戦車、大砲、ヘリコプター、水門、自動車など様々な模型が展示されている。スケッチの中には走る馬車の後に付けられた数枚の刃物で手足がもぎ取られて倒れている兵士の姿もあった。また、円盤のような丸いドームの中にいくつもの鉄砲が据えられている絵もある。キャタピラこそないが、これは戦車の原型だろう。
ルネサンスの天才も数多くの残酷な兵器を考えていたことを知って悲しくなった。天才の悪魔的な一面を目にした感じだ。フランソワ1世はよくこの館にダ・ビンチを訪ねては会食し、自由に歓談したというが、その中には軍事の話も少なからずあったのではないだろうか。実際、フランソワ一世がイタリアのルネサンスの教養人を招くきっかけとなったのも、フランス軍のイタリア遠征に力を入れていたからだ。
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アンボワーズ城。写真に写っている城内の中庭は下に広がる城下町より、一段と高いところにある。
城から見下ろしたロワール河





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