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2015年08月18日14時30分掲載
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反戦・平和
「安倍政権と沖縄、そしてアジア」(上) 「日本の戦争犯罪は事実かどうか疑問だと言い張ってきた人物が、今基本的に考え直したとは思えません」 ガバン・マコ―マック
「安倍政権と沖縄」をどう見るか。。2015年6月21日に東京都内で開かれた「沖縄意見広告運動」の講演会での講演から、歴史学者で東アジアと日本の近現代史の研究者であるオーストラリア国立大学名誉教授ガバン・マコ―マック氏の発言を紹介する。この講演で氏は、同年4月に米上下院合同議会で行った安倍演説の欺瞞性を明らかにし、現在の沖縄の位置を「日米両大国対一県」と位置づけ、「歴史的な出来事」を規定。沖縄の発展は日本や米国との関係ではなく「アジアとの友好関係の中にある」と言い切った。(大野和興)
「安倍政権と沖縄、そしてアジア」 ガバン・マコーマック オーストラリア国立大学名誉教授
ガバン・マコーマックです。最初に日本に来たのは53年前の1962年。神戸に上陸したのは、6月の梅雨の薄暗い、雨ばっかり、の日だった。しかし、その時以来、今ほど日本の空が、不安に満ち、恐ろしく、暗く見えたことはありません。
◆自民党に「保守の理念」は存在しない
2012年12月に安倍首相を再登場させた日本にも大きい変化が起こっています。安倍首相は憲法、教育、安保、農業や商工業まで広く、本質的に変容させようとしている点で、戦後70年の歴代総理の中で最も過激な総理と言えます。保守党と言われても、自民党に今や「保守の理念」は存在しないのです。
もちろん日本だけではない。世界中に大変な暴力と混乱を伴った大変革があちこちで起こっています。21世紀も15年目になりました。グローバル体制の基盤が揺れ動いて非常に不安定です。その不安定さの中心に第一の覇権国であった米国の衰退といくつかの新興国、特に中国の急激な影響力拡大があります。
第二次世界大戦後から世界を支配してきた米国は、国内的に経済も社会も慢性的に問題を抱え、国際的には、国際法を認めず、国際法に従わず、気の赴くままに他国に侵入、侵略し、世界を暴力と無法状態の渦に巻き込み、殺傷、破壊を拡大し、戦争犯罪に関与するなどいわゆる悪の帝国になっています。
世界に民主主義を教えると唱えつつ、現実には軍事産業を筆頭に企業の利益優先主義が、政治を支配しています。紛争地域に武器を売りつけて儲ける構造が紛争を拡大し、長期化させ結果的に道義的にも財政的にも米国を衰退させています。ホワイトハウスでオバマ大統領は、毎週火曜日、暗殺者リストからその週の候補を選ぶといわれます。暗殺にはもっぱらドローン(無人飛行機)が使われますが、法によらない殺人は犯罪であることは言うまでもありません。
◆米国、中国、日本
欧米の列強が中国を侵略してきた200年ほど前まで、中国は世界の大国でしたが、今また世界の中心的地位を回復させつつあります。1990年代初期から2014年の間に中国のGDPは20倍に増え、10・3兆ドル(日本の約2倍)で世界第2位となりました。1990年には世界経済の2%だけであった中国経済は、現在では17%、また2030年には、25%、2060年には27・8%を占めるだろうと予測されています。
一方、1990年に世界総生産の15%を占めた日本経済は2008年には10%以下に下がり、2030年には6%、2060年に3・2%になる予測が出ています。おそらく財政赤字や人口の減少や老齢化などより、日中の世界経済に占める比重の変化が何より日本社会の不安感の一因であると思います。もちろん1990年代から安定した雇用は激減し、今では約40%が非正規雇用者であること、安すぎる最低賃金など労働や福祉政策の不備が、市民の明日の生活の不安を煽っているのは確かです。
もはや世界は、米国を軸に回っているわけではないのは明白ですが、日本政府はそういう前提、つまり1952年のサンフランシスコ条約で日本が独立国として世界に復帰した頃、米国がダントツであった時代を今でも前提にしているようです。首相も政府も、米国が軍事的にも経済的にもそして何よりも倫理という面で着実に後退していることが見えていないようです。
安倍は『戦後レジームからの脱却』を唱え、戦後民主主義の時代を忘れて『日本の独立を取り戻す』ことを呼びかける一方、実際には米国従属をますます強めています。破滅的戦争が終わってから70年たって、次の戦争の準備をしているように見えます。
◆米両院演説、お土産は自衛隊武力行使容認とTPPだった
2015年4月、米国両院合同議会で熱心な聴衆を前に、安倍首相は日本国総理として演説の機会を与えられました。いろいろ言葉を並べたのですが、日本国民を代表し、さきの戦争で斃れた米国の人々の魂に永久の哀悼を捧げますと述べ、民主主義や法の支配、人権という日米共通の価値観を積極的に支持すること、将来の日米関係を、(世界に希望を与える)希望の同盟と呼びましょうと言って終わったのでした。今回の安倍首相の訪問は好感を持って迎えられたようですが、それは安倍首相の演説が米国賞賛に終始したためではありません。訪米のお土産に自衛隊の武力行使容認とTPP承認を持っていくことが期待されていたからだったというのは周知のことです。
2013年に首相として訪米の際には、議会で演説することも、晩餐会も、大統領との共同記者会見も何もなかったのです。当時米国政府は安倍の歴史修正主義、靖国参拝、南京虐殺や慰安婦はなかったという立場に非常に批判的でした。「戦後レジームからの脱却」「(米国の)押し付け憲法を改正(かいせい)する」「日本の独立を回復する」国民が誇りを持って靖国神社に祀られたものを含め戦死者の魂を敬うことができるように、「正しい歴史を教える」という安倍のスローガンは、占領国が作り上げた戦後の日本を真っ向から否定するものであり、米国の設計にそれほど深い敵意を表した者はいなかったのです。
◆戦争への悔悟は相手を喜ばせる「広報活動「
「戦後レジームから脱却し」「日本を取り戻す」ことが安倍政府の課題だという時、安倍首相にとって好ましい日本的なものとは、1945年以前の天皇崇拝の全体主義体制と見分けがつかないものです。
もちろん安倍首相は念願の国内向け課題をワシントンで口に出して言うことはありませんでした。演説中の戦争への深い悔悟と米国と価値観を共有するとかは、相手側を喜ばせる広報活動です。過去20年以上、村山、河野談話で表明された謝罪のもとである日本の戦争犯罪は事実かどうか疑問だと言い張ってきた人物が、今基本的に考え直したとは思えません。村山、河野談話を是認していますが、日本の「侵略」戦争であったとか、慰安婦の募集や管理における日本軍の役割について肝心(かんじん)の部分に触れることは避けています。
≪ガバン・マコ―マック≫ Gavan McCormack オーストラリア国立大学名誉教授。歴史学者。専門は、東アジア現代史、日本近現代史。20年以上沖縄へ通い、「沖繩は、国家に抵抗する市民お民主主義の力を見られる場所です」と語る。邦訳された著書に、 松居弘道・松村博訳『空虚な楽園――戦後日本の再検討』(みすず書房, 1998年) 吉永ふさ子訳『北朝鮮をどう考えるのか――冷戦のトラウマを越えて』(平凡社, 2004年) 新田準訳『属国――米国の抱擁とアジアでの孤立』(凱風社, 2008年) など。
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ガバン・マコ―マック





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