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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2019年06月24日10時32分掲載
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政治
前川喜平氏講演会「21世紀の平和教育と日本国憲法」<8>専門家任せにせず、市民が声を上げよう
大野:では、会場からもご意見を頂戴したい。 質問者:新聞報道の中で、今の時代は学費がどんどん高くなり、学生は様々なアルバイをしなければ学校に通えなくなり、講義に出る時間も取れないという状況になっているようであるが、学費が高くなっている現状を打開する手立てはないのか、意見を聞きたい。
▽軍事費より高等教育への政府支出の増加を 前川:初等中等教育ではそれほどでもないが、日本はOECD(経済協力開発機構)諸国で比べた際に高等教育にかける政府支出額が異常に少なく、そのような部分での財政支援が求められることは間違いない。そのためには一定の税収が必要になってくるが、私はその財源を消費税増税などで賄う前に、内部留保を貯めているような大企業や財産を運用して所得を得ている富裕層などへの課税で賄うべきであると思っている。資産を有している者に課税する趣旨である「応能負担の原則」をもっと徹底するべきである。そして、財源を確保した上で軍事費を減らせばよい。アメリカから、欠陥があるかもしれないF35A戦闘機を200機買ったり、イージス・アショア(陸上ミサイル防衛システム)に何千億円もかけるのではなく、人間が生活する上で大事な分野に財源を充てるべきである。
新自由主義で格差が拡大した現代で、その格差を是正するために最もお金をかけなければいけないのは、「子供たちの教育」である。特に高校や大学などの学歴の差がそのあとの人生に響いていくことから、高校中退を防ぎ、希望する者が全員高校、大学、専門学校に行けるようにすることが重要で、そのためにお金をもっとかけなければいけない。今の安倍政権は、幼児教育と高等教育の無償化を目指すと言っているが、私は見かけだけであり本気で考えているとは思えない。
幼児教育については、今年の10月から3歳から5歳児の児童について、一律に無償化を図ろうとしているが、これは間違った政策で、消費税を増税し、国民のなけなしのお金を使うのであれば、このような形でばら撒くのではなく別の使い道がある。幼児教育の無償化については、すでに低所得層は無償化になっているため、低所得層にとってはなんのメリットもなく、中・高所得層に対して恩恵が生じるという意味では、格差はむしろ拡大する。幼児教育を無償化するよりも先に必要な人全員が保育園などに入れるようにするべきで、待機児童がいるのにも関わらず無償化を進めるのはおかしなことである。待機児童解消がまず先にあり、そのためには保育士の待遇や配置基準を良くしなければならない。
高等教育の話では、民主党政権時の国際人権規約では高等教育の漸進的無償化条項の留保を撤回しており、日本は国際公約として高等教育の無償化を目指すことが約束されている。しかし、実際にはものすごく学費がかかり、学費を稼ぐためにブラックバイトで苦労し、そのために授業に出た際は疲れて寝てしまう学生が多い。また、奨学金の貸与を受けて1000万円近い借金を背負って卒業し、返済ができずに自己破産する学生も増えている。加えて、自己破産した学生の親が奨学金の連帯保証人になっていたがために、その親も自己破産に至るような事例も起こっている。奨学金による悲劇が引き起こされており、このような事態をなくすためにも貸与制ではなく給付性の奨学金を充実させる必要がある。
近年は国立大学の授業料がかなり上がっており、上がった授業料に対してできることと言えば、経済的に困窮している学生に対しては授業料を免除するという施策を進めていくことである。今の安倍政権でも、授業料の免除や給付型奨学金を推し進めようとしているが、大きな規模にはなっていない。また、問題なことに、どこで何を学ぶかで差別するような選別の思想が入ってきている。大学改革を進める大学に行けば、給付型奨学金の対象とするが、大学改革を進めない大学には給付型奨学金を支給しないこととしている。
大学改革とは、理数科教員による授業が1割以上行われていたり、大学の理事に外部人材を入れている大学などを指し、経済界の要求に応えた大学に給付型奨学金を支給している。経済界の要求に応えないような大学は役に立たないから、そのような大学に進学する学生には給付型奨学金を支給しないとしているのである。進学先で選別する考え方が盛り込まれており、これは非常に問題があるといえる。どこで何を学ぶかは、学びの主体である学生本人が決めるべきことであるが、その学費を保証するのは何を学ぶのかによらず、経済的に困難であるならば、困難に応じて給付するという発想でなければいけない。
現在の安倍政権は、「GDPを引き上げるのに役立つ人材には金を付け、そうでなければ金を付けない」という国家に基盤を置いた発想をしており、非常に問題があると感じている。世の中には、GDPを押し上げることには役に立たずとも、学問として必要なものがたくさんある。GDPに関係ない学問は学ばなくてもよいという政策に陥っている安倍政権が掲げる高等教育無償化は非常に問題を含んでいる。
▽ネット社会への対応が遅れる教育現場 質問者:中学2年生の孫と同居しているが、孫がSNSを見ながら「韓国はひどい国だ」などと言い出す。それに対して説教をする立場ではないが、学校教育の現場でもSNSなどを通じて入ってくるフェイクニュースなどが蔓延しているのではないかと危惧をしている。学生の友人同士の会話の中などで、韓国の悪口を言い、それを洗脳に近い形で信じ切っているということがあるのではないかと感じている。このような状況を受け、どのように教育を進めたらよいか教えて頂きたい。
前川:ネット社会になり、嫌中嫌韓やヘイトのような様々な情報が発信をされるようになったため、その情報を信じてしまっている人たちもたくさんいる。学校では、このような状況に対応するためにも、しっかりとした情報教育を行うべきである。インターネット空間に蔓延した情報をどう見分けるかという、情報を見分ける術を身に着けることは非常に重要な現代教育の課題であると感じているが、現状ではまったくできていない。これは問題であり、本当は道徳教育よりもそちらを進めるべきであると感じている。
さらに心配なことは、現在小中学校の教師の世代交代が起きており、人数の多かった50代の教師が辞めることにより、20代の教師が増え、40代の教師はあまり人数がいないという状況になっている。40代の教師が不足しているのは、15年から20年ほど前に、教師になるのが難しい時期があったためであり、50代の教師が大量に退職しているのは、団塊ジュニアや第二次ベビーブームに該当する人たちが、30年ほど前に大量採用され、現在退職する年齢になったためである。現在、小中学校の教員が急速に若返っているが、このような若い教師はすでにネット社会の影響を強く受けている。
現在教師の仕事は「危険、汚い、きつい」という3Kの状態にあり、採用試験の倍率が下がっているため、教師になろうと思えば誰でもなれるような状態にある。これにより教師の質も下がり、高等教育や情報教育の面などにおいても、上の人間の指示を受けるがまま、疑問に思わずに教育を行う教師が多い。このような状況を改善するためには、問題点を市民などが学校の外部から投げかけることが重要だと感じている。道徳や情報などの分野で、現在学校でどのような教育が行われているかのか関心を持ち、疑問点を学校に投げかけていくことが必要となる。
▽安倍首相が真の「愛国者」ならば・・・ 質問者:九州大学の非常勤教師がオートバイで突っ込んで自殺したという報道を拝見した。正式な教師になる機会がなく、700万円の奨学金を抱えながら、非常勤講師を掛け持ちして憲法学を教えていたようである。このような人が自殺したニュースを見聞きしたときに、「安倍内閣の政治がここまできたか」と感じた。安倍政権は安保条約の方を向いて政治を行っているが、安保条約の下では日本には本当の自由は来ない。翁長雄志・元沖縄県知事は、「今の日本は憲法の上に安保条約がある」と言って亡くなったがどう思われるか。
前川:砂川事件の第一審を伊達判決と呼んでいるが、これは駐留米軍を許している政府の行為を憲法違反と判断したものである。これに対して、政府は一気に最高裁に上告を行い、一審判決をひっくり返した。このときの最高裁長官が田中耕太郎という人物であったが、判決を出す前に「このような判決にするから大丈夫である」とアメリカ側に話していたという公文書が出てきている。このような状況が、まさに憲法の上に安保条約があるということを示している。最高裁は判決に際し、「国家統治の基本に関する高度な政治性を有する行為は、司法審査の対象から除外する」とした統治行為論を採用し、憲法よりも安保条約が大事であると明言している。
田中耕太郎という人物は元来優秀な人物で、教育基本法の制定に携わり、「教育基本法の理論」という立派な本を執筆し、我々はその本を読んで勉強をしていたものである。その本の中では、「政治権力に対する教育の独立性」を訴えていたにもかかわらず、司法権の独立を守らずにアメリカに判決の内容を事前に通告したことは非常に情けないと感じている。日本はサンフランシスコ講和条約により、アメリカから独立したように見えるが、実は日米安保条約により独立が果たせていない状態がずっと続いている。いまだにアメリカに一部占領された状態が残っているというのが安保条約だと思う。日本の憲法を上回る安保条約の下に、法律を上回る日米地位協定があり、その下で沖縄の人たちが苦しんでいる状況が続いている。
本当に安倍さんが愛国者であれば、仮に安保条約を続けるとしても、日本にどれだけの基地が必要かということについてアメリカと向き合うことが必要だと思う。そういうことをせずに沖縄にばかり負担をさせるということは従来の保守政治家から見てもおかしい。もし辺野古での基地建設について、あれだけの県民の反対意思が示されたのであれば、橋本龍太郎さんや小渕恵三さんであれば立ち止まり、辺野古での基地建設中止の決断をしたと思う。今の安倍さんは自民党の本流ではなく、今の自民党が安倍党になってしまっている。これは源流を辿ると岸信介に辿り着き、「おじいちゃんのようになりなさい」とお母さんから教えられたのではないかと感じている。岸信介の娘さんが安倍さんのお母さんであるから、そういう幼い頃からの母親の教えが影響しているのではなかろうか。
質問者:私の恩師は群馬師範学校出身の先生で、その先生に3年間教えてもらい人材教育をしてもらったことが未だに志に生きている。師範学校の先生は教育に使命感を持っており、そこに今の教師との差があると思う。母親は子供たちともっと触れ合う時間を取るべきである。教師は8時間勤務の内の半分ほどの時間を外部の保育所に直接通い、保育士などとスキンシップを取りながら、保育所での教育を行ってもよいと思う。
前川:師範学校の卒業者は、戦後の民主教育の担い手となったわけであるが、それ以前には「戦争に行って死ね」ということも教えていた。師範学校は確かにプロ教師を育てる場ではあったが、戦時中・戦前の体制の下では、国策に完全に協力するような教育をしていた。国が民主化を進めれば民主的な教育を行ったのであろう。戦後の考え方では、教師は、教師を育てるためだけの学校からではなく、大学で様々なことを学んだ人達がなるべきであるとしている。これは専門的なことだけを身に着けるのではなく、大学で自由に学ぶという経験をし、自ら学ぶという姿勢のある人材を大学で教師として養成するという考え方である。
また、母親の役割は大事であるが、女性の人生の自己決定権もすごく重要である。子供にとってスキンシップは大事であるが、それが母親止まりでなければならないことはない。父親も同様の役割を果たせるし、保育所の保育士も大事な役割を果たしている。育児休業を取って子供と一緒に過ごすか、保育施設を利用しながら仕事を続けるかは選択の問題である。育児休業を取得するにしても、母親が取らなければならないというわけではないと思う。父親の育児休業がもっと広がるべきであると思う。
大野:私たちは教育という事柄について、普段いい学校に行くとか偉くなるというような次元でしか捉えていないが、前川氏の話を聞いて、すごく身近な問題とし存在するこということを改めて感じた。私は日本消費者連盟にも関わり、「暮らし」や「食」や「農業」をつうじて人間の心身を壊していく問題に取り組んでいる。今後は、同時に教育の問題についてもより身近な問題として捉えことが必要で、そこから様々な対抗とか主体を形成していくことができるのではないかと感じた。そのためには、それぞれの当事者性を生かしながら、それぞれの市民の立場でもう少し積極的に発言・行動し、教育を専門家に任せないということが重要であると思っている。 (おわり)
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