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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2019年10月10日23時37分掲載
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農と食
漁業法改訂で日本はどうなる 企業参入で乱獲・漁場環境破壊の恐れも 若槻武行
1946年制定の「漁業法」が約70年ぶりに改訂された。昨2018年12月の臨時国会で改訂案が可決・成立。国民には知らせることなく、審議時間は衆・参両院併せて、何と22時間35分という短時間だった。今回の改訂は国連海洋法条約に基づいて、資源保護に配慮されたというが、問題はそれに便乗した「漁協の弱体化」「企業参入」「小規模・家族経営漁業の切り捨て」が狙いだ。それも、農協法や森林・国有林法の改訂と共通する問題点が多い。
◆漁業の民主化、漁協の優位がなくなる
漁業法の主な改訂内容は次のとおり。 (1) 漁業の「民主化」が削除された。民主化は旧漁業法の「目的」で同法の根幹でもあった。戦前のような網元による搾取などは確かに過去の話だが、漁協による漁場の民主的な運営は弱まるだろう。 (2) 漁業権の付与で「地元漁協を最優先」する規定がなくなった。新規参入者には個別に「地域の水産業の発展」に資するかどうかで、漁業権が付与されるようになった。 (3) 漁獲割当量は、まず農水省が都道府県の沖合漁業と沿岸漁業の漁獲枠を漁獲実績等を元に配分し、次に都道府県が船舶ごとの漁獲量を配分する。その配分ルールは不明。現在の漁獲量の枠には業界・行政の意向が関係し、資源量よりも多く設定されていて、資源保護となるものではない。その傾向が強まるだろう。小規模漁業への配分が少なくなる恐れは十分にある。 (4) 漁船の規模(サイズ)規制が弱まった。これまでは乱獲を防ぐために、漁船の規模を規制してきた。個々の船が漁獲枠で規制をされると、漁船の大きさ規制は必要ないという訳だ。 (5) 漁業紛争処理の調停委員を公選制から、都道府県知事の任命制に改訂した。これまでの委員の選挙は持ち回りで決めるなど、確かに形骸化していた。今後は漁業者・漁協の優先選出が減り、企業にとっては有利となることは明らかだ。
これら(1)〜(5)で、大型船が過剰な漁獲枠で操業すれば、企業が有利になり、資源が減少して行く。家族経営の小規模漁業は担い手・後継者が減って人手不足になり衰退する。特に養殖では企業の進出が進むだろう。
(6) 密漁の罰金の上限を200万円から3000万円に引き上げた。これまで漁場を実質的に守ってきたのは漁協である。今後、企業参入で競争が活発になると、漁場の秩序は乱れ、そこに密漁がつけ込んで来る。 林業では民有林や国有林への企業参入が盛んになり、指定区域を超えた乱伐が起こっているが、その区域は別の所有者が居たりして、盗伐となるトラブルも起こっている。それは密漁と同様ではないのか。
◆輸入拡大、埋立てで漁獲量が減退
そもそも、かつて日本は世界トップの漁業国であった。1961年から水産物の自由化が進み、国内の漁獲量が減少した。62年ころからの農産物や木材の輸入が始まり、農業・林業に陰りが見えはじめた、ほぼ同じ時期だ。
1994年の国連海洋法条約の発効により、海岸から200海里(約370km)以内が「排他的経済水域」と指定され、遠洋漁業はもとより、近海漁業も大きく変わった。概要へ漁場を求めて遠征ことが大きく制限され、漁獲量はさらに激減し、輸入が増大していく。 その一方で、日本の近海は荒れてきた。その大きな原因は「埋立て」にある。行政は漁業者・漁協に漁業権を放棄させ、大手マリコンに補助金を出し、埋立てをどんどん進めてきた。 浅瀬・藻場・干潟の埋立ては、多くの小魚や貝など水生小動物の棲みかを奪った。水生小動物の餌は植物プランクトン。それを生み出す栄養塩は山林など自然界で生成されるが、工場や生活排水にも多く含まれている。小動物はそれらを消化・分解し、海水をきれいにしている。
埋立てで小動物が減ると、栄養塩は減らず、植物プランクトンが増え過ぎ、赤潮の原因となる。赤潮の海底ではプランクトンの死骸など大量の有機物をバクテリアが分解する。その時、水に溶けた酸素を大量に消費する。酸素が少なくなった海は、生物が棲みにくい「貧酸素海域」に変貌する。 そこでは魚介類が棲めないので、漁獲量減少との関係が強いといえよう。特に、東京湾・伊勢湾・瀬戸内海・有明海など、いわゆる「閉鎖的水域」では「貧酸素水域」が増え(湖でも同様)漁獲量が極端に減っている。
◆企業参入は果たして成功するのか
漁業への企業参入は旧漁業法でも、漁協の了解があれば可能だった。漁業者仲間が共同で会社組織を作り、漁協に加入することもあった。当初、漁業に新規参入してきた企業は、中小の業者が多かった。参入業者は漁場や漁港をはじめ、各種設備、関係インフラを利用しなければならない。ルールを守り、漁協や小規模漁業者と良好な関係を保ってきた。 2011年の東日本大震災の津波被害を受けた漁港の復興では、企業も積極的に協力している。それは改訂前の漁業法に基づいて行なわれてきた。
それが大きく変わったのは、2013年、宮城県の村井嘉浩知事が進めた「水産業復興特区」からだ。震災復興のため、県内140の漁港のうち中小施設は潰して3分の1に減らす。漁業権を企業に渡し、漁業者はその企業で社員として働けばよいと言うのだ。漁業者は反対したが、「震災復興」を唱える県知事は国の後押しのもと強引に漁場の分割を進めた。
だが、その多くは巧く進んでいない。石巻市桃浦では、企業と地元漁民の一部が共同出資したカキ生産会社の一社にのみに、漁協を通さず免許を交付。果たして、漁業者の不安は的中。この業者はその後、漁業者の協定を守らず、出荷日を勝手に早めるとか、他県産のカキを地元産品に混ぜて売り、地域の信用を失墜させるなどのトラブルが多く、赤字経営を続けている。 この企業の失敗は明らかだが、まだ倒産まで至らないのは、当初から国の後ろ盾があったから。16年には奥原正明農水事務次官が就任。規制改革推進会議は17年9月に水産ワーキング・グループを立ち上げ、「林業と水産業の民間企業への開放」を各地で進める。行政の担当者は国や知事の意向に忖度し、 漁業者・漁港の慣習や海の環境に配慮しない。
18年5月、水産庁は水産業を「成長産業」とし、養殖漁業への新規参入の権利を漁協を通さず企業が取得できるようにした。
◆漁場・環境破壊がさらに進む恐れも
アベノミクス成長政策は製造業だけでなく、第一次産業の農林業や漁業でも、結局は大企業中心の政策である。漁業も大型化し漁獲量を増やす。特に、養殖業は「成長産業」として力を入れて来るだろう。 だが、漁業の現場を知らない「経営コンサルタント」中心の企業は地元と巧くやって行けない。青森市内の魚卵メーカーは深浦町で2014年、漁協、自治体、地元の定置網会社が連携して北欧のサーモン養殖会社を買収し、養殖企業を設立した。ところが当時、「共同漁業権」が得られなかった。この共同漁業権は小規模漁業の地元漁協にのみ与えられてきたもの。養殖を営むのに必要な「特定区画漁業権」もまだ、地元の漁協が優先だった。
今回の法改訂で企業参入はさらに進む。企業の多くは営利目的で、漁場を荒らすなどのトラブルが頻発する。儲からないなら、荒らしたまま撤退する。こんなことで、漁場の秩序が保てるのか?。 そのうち、漁獲制限の違反者への罰則も増えて来るだろう。日本ではまだ沿岸の小型の個人漁業者が多い。近い将来、漁船・漁業者を減らし、漁船を大型化して、船ごとに漁獲量を管理するようになる。ノルウェーなど漁業国のように。しかし、日本は財政難で行政職員が減らされていて、取り締まりは困難だろう。結局、企業任せの乱獲になるだろう。
乱獲、漁場の荒廃で環境破壊が進んでいく。かつては埋立てや海砂略奪などで海の環境破壊が起こったが、今後は漁業内部から海が荒らされる。この法改訂で漁場は、漁業そのものは、どうなるのだろう。農業、林業と共に衰退し、過疎化、環境破壊がさらに進むのだろうか。そんなことが起こらないことを祈っている。 (食と農・環境フリーライター、環境市民団体役員)
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