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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2023年02月07日11時46分掲載
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アジア
ミャンマー「夜明け」への闘い(10)ヤンゴンの平和は終わった 西方浩実
2月25日。ヤンゴンの平和は終わった。ヤンゴン中心部のスーレーパゴダ周辺には、朝から「軍支持者」たちが集った。軍の支持者なんて本当にいるのか、と驚く私に、友人は「まぁね。軍人の家族や親類縁者、あとは軍に味方することで利益を得ている人たちだよ。でも今日集まっている人たちの多くは、軍に買収された貧しい人だ」と説明する。参加者には5000チャット(約380円)が支払われているのだという。「日雇い労働だよ。いつもの軍のやり方だ」と友人はため息をつく。
▽乾いた銃声、叫び声、逃げ惑う人びと スーレーパゴダ前の大通りは、今回の抗議デモはもちろん、過去にも民主化運動の中心地になってきた場所だ。そのため、市民の抗議運動の盛り上がりを警戒した軍側は、2月半ばからスーレーパゴダ周辺にバリケードを張って、抗議デモができないように封鎖していた。しかし彼らはこの日、軍支持者たちから成るデモ隊を、バリケードを動かしてあっさりと招き入れ、彼らを脇から警護した。(警護などしなくても、市民は武器など持っていないのだが。)
市民たちはバリケードの外側の歩道に立ち、頭上で両手をクロスさせて、反軍政の意思を示す。周囲からは、魔物を追い払うための鍋の音が響く。
その軍支持者の集団には、あろうことか破壊分子が潜んでいた。男たちは大ぶりのナイフや棒を振り回し、スリングショット(ゴム製のパチンコ)を引いた。抵抗する間もなく刺された人もいるようだった。それでも市民たちは、やり返さなかった。破壊分子が暴れ出したのは、自分たちへの挑発だとわかっていたからだ。軍はそうして市民の間に争いを起こし、頃合いを見計らって、「治安維持」のために「暴徒を鎮圧」するのだ。同じく、棒を持った集団が現れたヤンゴン中央駅では、女性や子どもが、誰も連れて行かれないように、腕を絡めて人の鎖をつくったという。
破壊分子たちの様子は、すぐに画像としてFacebookに拡散された。ナイフを振り回す男の耳にはイヤフォンが写っている。「誰か」から指示を受けているのだという憶測が飛び交う。
夕方にはヤンゴンの別の地域で、ついに警官隊が市民に向けて銃を撃った。発端は、その地区の首長が、軍から指名された人に交代したことを、住民が「受け入れない」と意思表示したこと。これを許さない軍側は、警官隊の前でシュプレヒコールをあげ続ける住民を、銃で押さえ込んだのだ。
住民らが逃げながら配信する動画から聞こえる、乾いた銃声。叫び声。逃げ惑う人々。カメラの映像が乱れ、途切れる。混乱は夜まで続き、一部の市民はビルの中に囲い込まれた。何十人か拘束されたらしいが、もう、あとはわからない。自分を守るために、インターネットの画面を閉じる。とうとうヤンゴンもこうなってしまったんだ・・・がっくりとうなだれる。これが、国軍がクーデターで達成したかった「民主主義」か。反吐が出る。
ヤンゴンでの銃撃を知り電話をかけてきた、地方在住の30代の友人は、軍政への怒りを熱っぽく語ったあと、ふと口調を緩めて言った。「But, unfortunately, I was born in this country.(でも、僕は不運にも、この国で生まれてしまったんだ)」
Unfortunately(不運にも)という言葉に、どうしようもなく切なくなる。母国に生まれたことを「不運」と嘆くことの、悲しさ。誰だって、自分が生まれ育った国を嫌いになんかなりたくない。だけど私も「そんなことないよ」と咄嗟に言えなかった。もう言えなくなってしまった。
母国への誇りを失ったミャンマー人の心は、どれだけ傷ついているんだろう。 国軍には、ほんのわずかでも、それが見えているだろうか。
▽無差別虐殺 2月28日。クーデターから明日で1ヶ月。軍や警察がいつ市民を弾圧するか、とずっと怯えてきた。でも「弾圧」という表現は甘かった。これはもはや、無差別の虐殺だ。スマホに次々にアップされる、悲惨な画像や動画。これはいつ?どこで?と必死で情報を追いかけても、何ができるわけでもない。だけど、目を背けてはいけない気がする。
無抵抗の市民が、銃で撃たれて倒れる。鳴り止まない銃声の中、ジャバジャバと血の流れ出す仲間の身体を4人がかりで抱え、少年たちが必死で走る。自分たちも撃たれるかもしれない。でも、仲間の身体が軍の手に渡ってしまえば、二度と返ってこないかもしれない。(事実、マンダレーで銃撃後に軍の病院に収容された男性の遺体を、軍は「コロナに感染していた」として、家族の元に返さなかった。)
警察は、市民を警棒で殴り倒す。意識を失ったように見えるその人を、さらに棒で突き、殴る。抵抗なんてしていないのに、ただ痛めつけるために殴るのだ。デモをする医学生たちの周囲をかこんで追い詰め、白衣を剥ぎ取って次々と護送車に押し込む。女性の髪を引っ張り、男性を羽交い締めにして殴る。エスカレートする暴力。信じられない、どうして、どうして、とパソコンの画面を見ながらオロオロする。
市民は、ドラム缶を切ったような手作りの盾を持ち、警察隊と対峙する。飛んでくる催涙弾を打ち返すために、テニスラケットを手にする人もいる。多くの人が、ヘルメットやゴーグルをつけている。カバンを前で抱えている人は、防弾チョッキの代わりだろうか。
武器など何ひとつ持っていない。ただ撃たれたら逃げ、逃げた先でまた叫び声を上げるのだ。
でも、そもそもなぜ彼らは撃たれているんだろう。 軍政は嫌だ、と意見を言ったから? 5人以上で集まっているから? それは、殺されるほどの重罪ですか?
私の自宅周囲もバリケードで囲まれた。地域住民が、軍や警察が入ってこられないように、道路を塞いでいるのだ。アパート前の道には、ゴミ収集箱や店の看板、机や椅子などが積み上げられ、その前後には割れたコンクリートブロックや石などがまきびしのように置かれている。道路に貼り付けられた無数のミンアウンフライン軍総司令官の顔写真は、兵士や警官の、国軍総司令官の顔写真を踏みつけることへの躊躇を利用した心理的なバリケードだ。
アパートの前で、複雑な気持ちでバリケードを見つめていると、セキュリティのおじさんに声をかけられる。「ジャパニーズ(=私)、今日は危ない。家で過ごした方がいい」。いつも笑顔で陽気なおじさんの、真剣な眼差し。
自宅に帰ってぼんやりしていると、少し遠くでパァン!と乾いた銃声が響く。軍が来た、とハッとする。急いでパソコンを開き、誰かがFacebookでライブ配信していないか探す。あった。私の通勤路が映っている。いつも屋台が並び、客待ちのタクシーがたむろしている場所だ。でも今この画面上では、同じ道路上に白煙が上がり、まるで戦争のように、ヘルメットをかぶった人々が大声で叫び、逃げ惑っている。
・・・え、なにこれ。今?そこで?うそでしょ? 頭ではわかっているのに、事態を飲み込めない。いつもの穏やかな風景とのあまりの落差に、何が現実か認識できなくなる。
ライブ映像が切り替わる。カメラは別の街角で、バリケードを築いて防戦するデモ隊の姿を捉える。そのへんの看板や机やタイヤなどを、みんなで協力して積み上げる。バリケードの手前で、デモ隊は、声を合わせて反軍政のシュプレヒコールを繰り返す。視線の先には、銃を持った警官隊が横一列で盾を構えている。
一触即発の状況で、デモ隊の最前列にいる青年にインタビューを敢行するメディア。緊迫した空気の中、青年はひとつひとつ真面目に質問に答える。Facbookライブのコメント欄には、彼らの無事を祈る言葉が秒単位で投稿され続ける。
その中に「暴力で返さないで。僕らのたたかいを、世界に見てもらおう」という投稿。
市民たちもわかっているのだ。彼らがどれだけ声を枯らして叫んでも、それで軍政が倒れるわけではないことを。でもその姿を見た人が、その声を聞いた人が、自分たちの代わりにきっと何とかしてくれる。それを信じて、命を賭けているのだ。本当に、どうか世界に見てほしい。そして誰か、どうにかして彼らを守ってくれ・・・。
バリケードの向こうで、警察が動き出す。銃を構える。心が悲鳴を上げる。やめて!撃たないで!
その夜は、軍に拘束される夢を見た。あぁ日本人なのに捕まってしまった、大使館や外務省に迷惑をかける、名前や勤務先も報道されてしまうだろうか・・・そんな小さなことを気にしている自分に、夢の中で腹を立てている夢だった。
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銃声が鳴り響く中、撃たれた仲間を必死に運ぶ(Myanmar Nowより)
暴れる「国軍支持者」たち。中央と左の男が右手にナイフを持っている(ロイター)
頭上で腕をクロスさせて、抵抗の意思を示す市民(奥)(The Irrawaddyより)
ヤンゴン中心部に集まった国軍支持者(と日雇いアルバイト)のデモ隊を、警官隊がバリケードを動かして招き入れる(The Irrawaddyより)
地区事務所の前で、首長の交代に対して抗議の声をあげる住民と警官隊(Twitter/Mrat Kyaw Thu)
自宅近くの道路に張られたバリケード(筆者撮影)
路上には国軍総司令官の顔写真が貼られている。道を歩くと自動的に顔を踏んでしまう、という原始的な仕組みで、軍や警察の進行を阻む作戦。(筆者撮影)





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