2026年5月16日、日本帝国主義の歴史を捉え直し、植民地主義的な構造を考えるインタビュー講座「脱植民地主義のために」の第3回が、東京ボランティア市民活動センターで開催された。関東大震災における朝鮮人虐殺や女性国際戦犯法廷をテーマにした過去2回に続き、今回は「表現の不自由展・東京」共同代表で編集者・ジャーナリストの岡本有佳氏が登壇。
この春にドイツ・ベルリンでの最新現地取材を終えたばかりの岡本氏を迎え、聞き手で主催者の法学者・前田朗氏とともに、世界の「平和の少女像」をめぐる最新状況と、そこから逆照射される日本の課題について対談が交わされた。
【ベルリンの少女像「アリ」――潰されれば潰されるほど、新たに生まれる記憶】
講演の冒頭、岡本氏はドイツ・ベルリンのミッテ区に設置されていた平和の少女像「アリArne=アルメニア語で『勇気ある女性』」が、昨年10月に日本政府の圧力で撤去された後の広場の写真を映し出した。地面には、市民の手で「アリの広場」と鮮やかなペインティングが施されていた。
「日本国内では『撤去された』という事実だけが報じられますが、実はすぐ近くのアーティスト施設へ一時移転され、展示は続いています。さらに、すでに新たな数箇所から『うちの敷地で引き取りたい』という申し出が来ています。権力が潰そうとするほど、場所を変えて記憶は新しく生まれ変わるのです」と岡本氏は語る。 前田氏は、このベルリンの現状と日本の決定的な違いを指摘した。
「撤去されても現物が残り、次の居場所が見つかるドイツに対し、日本の『群馬の森』朝鮮人追悼碑で起きたことは、行政による一方的な『破壊』でした。歴史の記憶とアートに対するこの破壊行為がいかに異常で凶悪なものであるか、私たちは国際的な視点から再認識する必要があります」
【ドイツの「記憶の文化」と、普遍化する少女像】
なぜ、ドイツの市民はこれほどまでに「少女像」を自らの問題として受け入れるのか。会場からの「ドイツ人は少女像をどう捉えているのか」という質問に対し、岡本氏は社会に根付く「記憶の文化Erinnerungskultur」と、人口の約4割が移民ルーツというベルリンの背景を挙げた。
「現地の人々は少女像を、単なる日韓の政治外交問題とは見ていません。ドイツ国内でいまなお起きている極右によるテロの被害や、自分たちが抱える理不尽な差別の記憶と重ね合わせ、普遍的な『戦時性暴力への抗議と追悼の シンボル』として自発的に守っているのです」
一方で、前田氏は「ドイツの歴史反省を理想化しすぎるべきではない」とも補足する。武田彩佳・学習院大学教授の著書『歴史修正主義』(中公新書)を引き合いに出し、ドイツがホロコーストへの反省を「イスラエルへの無条件支持」という形で誤用し、パレスチナ問題において国際的に歪んだ対応をとっている側面を指摘した。
【ナチス強制収容所跡の取材から――「強制売春」という言葉の欺瞞】
岡本氏はベルリン滞在中、ザクセンハウゼンなど3つのナチス強制収容所跡地を訪れた。そこで衝撃を受けたのは、収容所内に設けられていた「売春宿」の存在と、ドイツ人研究者たちとの間で交わされた「言葉」をめぐる議論だった。
「私は現地の女性研究者に説明を聞くと、まさに性奴隷状態なのに、『強制売春Zwangsprostitution』という展示パネルの言葉は、金銭の授受があったのかも疑問な上に女性が自主的に売春しているかのようなニュアンスが残り、違和感があると問いかけました。すると彼女も『まさにその通り。今は個人的には【性的奴隷労働sexuelle Sklavenarbeit】という概念が最もふさわしいと考えている』と答えてくれました」
売春宿の利用券による収益は女性たちではなく、すべてシステムを管理するナチス親衛隊SSの懐に入っていた。前田氏はこれを受け、「男が女を所有し、別の男に売るシステム。これを性奴隷Sexual Slaveryと言わずして何と言うのか。ドイツの事例も日本の慰安婦問題も、本質はまったく同じ戦時性犯罪なのです」と法的な 位置づけを整理した。
【日本軍「慰安所」の圧倒的な広がりと沖縄の現実】
日本政府や歴史修正主義者たちは「慰安婦問題は捏造だ」という言説を好むが、岡本氏が提示した「日本軍慰安所マップ」女たちの戦争と平和資料館所蔵は、その嘘を圧倒的な事実で突き崩す。被害女性たちの出身地はアジア全域から太平洋の島々にまで及び、日本軍兵士が行くところすべてに慰安所が作られていた。
「さらに重要なのは沖縄の現実です。市民や研究者の手によって、沖縄本島や周辺の島々だけで約140カ所の慰安所跡がマーキングされています。沖縄戦の激戦地と完全に重なるこの場所に、多くの女性たちが連れてこられ、性奴隷として拘束されていた。この事実は決して隠せるものではありません」
前田氏は、日本政府がこれらの事実を打ち消すための海外ロビー活動に、膨大な国家予算税金を投じていることを強く批判した。
「海外の博物館にまで日本政府が展示のケチをつけに行っている事実が現地で暴露されているのは、実に恥べきことです。過去と向き合い、事実を知ることは市民の基本的人権であるはずです」
【アートがつなぐ対話と、韓国「慰安婦被害者法改正案」の衝撃】
講座の後半では、表現の不自由展の会場で日本の観客が少女像とどう向き合ったかが紹介された。視覚障害を持つ女性が少女像の「地についていない裸足のかかと」を触りながら対話する姿や、裸足の少女に共感して自らも靴を脱いで隣の椅子に座る若い観客の姿が映し出される。
「作家夫妻は『この作品は、隣の空いた椅子に誰かが座ることで初めて完成する』と言っています。それは加害国への糾弾を超えて、自国が戦後、被害者に向けてきた偏見や差別をも内省する、深い芸術的メッセージが込められているのです」
そして、2026年現在の最新の動きとして、韓国国会で今年2月に可決された「慰安婦被害者法改正案」についての報告がなされた。この法律は、日本軍慰安婦の被害者を中傷・歪曲し、名誉を毀損する行為に「5年以下の懲役または5000万ウォン以下の罰金」という明確な刑事罰を科すものだ。
前田氏は「ヨーロッパの約30カ国では、歴史否定発言を法律で処罰する『歴史否定罪』が確立しています。日本にはそのような法規制がなく深刻な歴史ヘイトが放置されていますが、韓国では市民5万人以上の請願署名が国会を動かし、この法案が通った。これは国際的な人権基準に照らしても画期的な一歩です」と解説した。
【追悼する権利を取り戻すために】
イベントの最後に、前田氏は国際人権法における「追悼する権利Right to Mourn」について触れた。国家によって命を奪われたり、行方不明になったりした犠牲者を捜索し、追悼することは生存者や遺族の重大な人権として位置づけられている。日本政府や右派による少女像への妨害行為、そして群馬の森での追悼碑破壊は、まさにこの人権を力尽くで踏みにじる暴挙にほかならない。
「言葉の弾圧や歴史の偽造に立ち向かうために、私たちはこれからも国内外のネットワークを通じて、事実を発信し続けなければなりません」と岡本氏は語り、独立メディアでのレポートや韓国の調査報道メディアとの共同プロジェクトなど、今後の精力的な活動への支援を呼びかけた。今回のドイツ現地取材の詳細な記録についても、今年8月にレポート記事として発表される予定だ。
歴史を直視し、脱植民地主義の未来を市民の手で切り拓くための戦いは、いまも世界各地の「少女像の足元」から、静かに、しかし力強く続いている。
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「〈平和の少女像〉 6年ぶりに警察バリケード外す「慰安婦」被害の否認・歪曲・フェイク流布を禁ずる法改正」は5月26日配信のデモクラシータイムス【韓国通信】参照。
https://youtu.be/gGOVYhbxlb4?si=tmSV0_-V0byGtg1B
『月刊部落解放』8月号特集「戦争と人権」に「平和の少女像から見た世界と日本」論考掲載予定
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