スイスのダボスで開催される「世界経済フォーラム」に対抗して、2001年以降、新自由主義グローバリゼーションや対テロ戦争への反対運動などを通じて貧困や戦争のない“もうひとつの世界(Another world)”を模索するグローバルな運動「世界社会フォーラム」が世界各地で開催されてきた。今年8月にはカナダ第2の都市モントリオールで予定されている。 日本でもこの運動に呼応した取組が行われていて、今年は3月23日から28日までの約1週間、東京都や福島県において、“世界社会フォーラムのこれまでの運動の蓄積と経験を核廃棄の運動へと繋ぐ”、“核の軍事・商業利用に反対し、核廃絶を求める”をテーマに掲げた「核と被ばくをなくす世界社会フォーラム2016」が開催されている。http://www.nonukesocialforum.org/ そのうち、3月24日にいわき市労働福祉会館(福島県いわき市)で開催された集会について報告する。
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<福島県民からの訴え>
東電福島第一原発事故の被害拡大に対する刑事責任を問うため、2012年3月に原発事故の被害者が集まって結成した“福島原発告訴団”副団長の佐藤和良さんは、裁判での刑事責任追及に向けた決意を訴えていた。 「福島第一原発事故から5年が経過した今も、事業者である東京電力も原発政策を推進してきた政治家も誰一人として責任を取っていません。全国では原発再稼働が進んでおり、こういった動きを止める意味でも福島第一原発事故の責任が誰にあるのか明らかになるまで闘い抜いていきます」
原発事故の影響で帰還困難区域に指定されている福島県沿岸部の大熊町に自宅があることから、今なお避難生活を強いられている“大熊町議”の木幡ますみさんは、故郷への思いを語っていた。 「大熊町では除染作業が行われていますが、除染作業によって放射線量が下がったと言える状況ではありません。それなのに政府は大熊町に住民を帰還させようとしています。なぜ、私たちは放射線量の高い地域に住まなければならないのですか。私たちにはそういう場所に居住しなくてよい権利があるはずです」
原発事故の収束作業や県内の除染作業に従事する労働者からの相談に対応している“いわき自由労働組合”書記長の桂武さんは、原発・除染労働者の現状を報告した。 「被曝しながら働く労働者がいなければ、福島県の原発・除染作業は成り立ちません。しかし、そういった労働者の多くは非正規雇用であり、被曝による健康被害の危険に晒されているのです」
<海外参加者の発言>
今回のフォーラムには、原発大国フランスの核物理学者や、チェルノブイリ原発事故処理に当たったウクライナの元原発労働者など、海外からの参加者も多く見られた。
フランスの核物理学者ベルナール・ラポンシュさんによると、日本とフランスの違いは次のとおりである。 ● 人口比 日本:フランス=2:1 ● 発電量 日本:フランス=2:1 ● 発電量のうち 原発が占める割合 日本:フランス=1:1
その上で、ラポンシュさんは日仏両国に3つの類似点があることを指摘した。 ① 日仏両国の原発建設には、米国が自国の原発を海外輸出する方針の下、日仏にそれぞれ圧力をかけて原発の輸入を受け入れさせた経緯がある。 ② 日仏両国とも原発に関する正確な情報を得ることが難しく、たとえ情報を得たとしても信ぴょう性に問題がある。 ③ 原発事故が起きても責任の所在が明確にならないという問題点がある。
続いて、1986年4月に発生したチェルノブイリ原発事故で事故処理作業に当たったヴァレンティン・ヘルマンチュクさんとムィコラ・ヴォズニュークさんは、高濃度の放射能汚染区域で被曝に身を晒しながら作業を続けたときの状況や、被曝によって今なお続く健康被害の状況を克明に語った後、チェルノブイリ原発事故から教訓を学ぶべきだと訴えた。 「チェルノブイリ原発事故は人類に過酷な試練を与えました。私たちは自らの過ちを認めて未来への戒めとしなければなりません」(ヘルマンチュクさん)
「私たちにできることは、この原発事故を記憶し続けることです。それが原子力利用に歯止めをかけることにつながると信じています」(ヴォズニュークさん)
<「ノーニュークス・アジアフォーラム」の訴え>
“核や原発のないアジアを目指す”という目的を掲げて1993年に結成し、日本を含むアジア各国でフォーラムを開催してきた「ノーニュークス・アジアフォーラム」のメンバーが、同じくいわき市内で3日間開催した「ノーニュークス・アジアフォーラム2016 福島原発事故は続いている ~人々の声を聞き、原発事故が社会に与える広範な影響の諸相を知る~」(3月22~24日)を終えて合流していた。 そのノーニュークス・アジアフォーラムを代表して、日本事務局の佐藤大介さんが連帯挨拶を行い、今後の活動目標をアピールした。 「私たちは、反原発運動ネットワークとして、アジア各国でフォーラムを開催してきており、今回で17回目となります」 「原発は技術的に大きな危険を抱えた発電システムのため、再生可能エネルギーに切り替えていくことが必要であり、この点が今後の私たちの重要な運動になっていくと考えています。また、日本国内ではアジアの国々に原発を輸出させないという目標を掲げて運動しています」
<運動の“つながり”が重要だ!>
世界社会フォーラム創始者の1人であるブラジルのシコ・ウィタケーさんは、集会の中で、運動の“つながり”を意識していくことが必要であると訴えている。 「世界社会フォーラムで提唱する反核、核廃絶といった運動を世界規模で続けていくには、単にネットワークを作るだけでなく、そこに運動を結びつけて“つながり”を持つことが必要です。そうした“つながり”を築くことによって、世界規模での原発阻止や反核の流れを作り出すとともに、原発を推進する政治に『NO』の声を上げていきましょう」
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世界社会フォーラムが目指す“もうひとつの世界”、原発も核もない世界が実現することを、福島県民を始め日本人の多くが願っている。(館山守)
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