東京からプラハ音楽院に留学後、チェコに留まりプロの指揮者として活躍中の岩��宙平(ちゅうへい 28)さんについては前回、この欄で紹介しました。バイオリニストのコースから指揮へ方向を変え、ドヴォルジャークやショスタコーヴィッチの曲を振ってデビューしたのです。作曲家としても活動しており、その将来には大きな期待がかけられています。その傍ら、岩崎さんはチェコの少年少女への音楽教育も精力的に行っています。その活動はどのようなものなのか、お聞きしました。(以下は岩��さんへのインタビュー)
Q どんな制度でチェコの子供たちに音楽を教えているのでしょうか?
現在私(岩��)は主に2つの現場〜プラハ音楽院、および社会教育プロジェクト’El Sistema’〜においてチェコの音楽教育に携わらせていただいております。(これら2つは性質が異なるプロジェクトですので、以下はそれぞれについて並列で回答します)
〇プラハ音楽院
これはチェコの音楽教育におけるもっともレベルが高い機関の一つで、日本の音楽高校に当たるものです。目的は当然チェコ一流の音楽家を育成することにあり、制度も私が通った桐朋学園女子高等学校音楽科に近いものがあります。生徒はソロの練習のみならず室内楽やオーケストラ、ソルフェージュ(耳の訓練、リズム感の訓練など)や音楽理論を学びます。プラハ音楽院は非常にアクティヴな学校で、交響楽団や室内楽団のほかにバロックオーケストラやミュージカル、現代音楽アンサンブルも履修可能です。
〇El Sistema (社会教育プロジェクト)
これは南米発祥の子供オーケストラ社会教育プログラムで、日本でいうところの小中学生が対象です。目的はプロの音楽家を育てることではなく音楽を通じて社会性の発達あるいは人格形成を助けるところにあります。BBCプロムス音楽祭における当プロジェクトのオーケストラ「シモン・ボリーバル・ユース・オーケストラ」の圧倒的な演奏をきっかけに世界的に広まりつつあります。チェコ共和国においても数年前に開始され、私は2014年より携わっています。現在プラハの子供オーケストラには約50名のメンバーがいます。
Q どんな生徒がいるのですか?
〇プラハ音楽院
プロを目指すだけあって非常に才能がある生徒にあふれています。楽器を問わず在学中よりチェコフィルハーモニー管弦楽団やプラハ交響楽団に入団する生徒も珍しくありません。国際コンクールに入賞する生徒も多数います。
〇El Sistema (社会教育プロジェクト)
これは興味さえあればどんな子供でも入団できます。楽器経験は全く必要なく、弾き方からすべて入団後に教わります。生徒側の費用は無料で(資金はNadacni fond Harmonieという慈善団体が管理しています)、楽器も無料で貸与されます。プラハのオーケストラには一般家庭の子供のほか孤児院の子供たち、経済的に困難な家庭の子供たち、あるいはロマの子供たちも集まっています。
Q 生徒たちに何を教えているのでしょうか?
〇プラハ音楽院
私は室内楽団の指揮者と交響楽団の副指揮者をしています。ざっと言うとプロフェッショナルなオーケストラに引けを取らない演奏を目指して日々リハーサルにいそしんでいますし、実際にそれは可能だと信じています。生徒のレベルが高いこともあり曲目は難度の非常に高いものを演奏することもよくあります。個人的にはプロオケのオーディションの課題曲をレパートリーに取り入れていきたいと思っています。
〇El Sistema (社会教育プロジェクト)
オーケストラを通じて他人を尊重すること、全員で共同作業をすること、音楽の中で音楽を体験することを教えています。E・サイードとD・バレンボイムが言っているように、他人と一緒に一つの音楽を奏でることは本人がそれを能動的にとらえようとそうでなかろうと特別な体験であることは間違いありません。また大きな演奏会や美しいホールで演奏することは自我の形成に役立つのではないかと考えています。
Q岩��さんにとってこの活動はどんな意義があるのでしょうか?
〇プラハ音楽院
私自身プラハ音楽院の卒業生であり、その学校において教員として働くことは非常に名誉なことです。私が室内楽団の指揮者になる数年前まで私の師匠がその職にあり、師匠にはまだまだ及ばないなと思いつつも毎週リハーサルの時間が来るのを楽しみにしています。暇な時間はほぼいつもこのオーケストラがどうやったらもっといい音を出せるかということを考えている気がいたします。
〇El Sistema (社会教育プロジェクト)
子供にとって最初に触れるクラシック音楽の印象は非常に重要です。もしそれが暇でつまらないものだったら、その先入観を後日消し去ることはきっと難しいでしょう。また社会的に不遇な状況にある子供たちの人生の一部に介入することは半端な心構えで行ってはならない行為であり、毎回リハーサルのたびに深く思考する必要があります。そういった意味では子供たちの人格形成のためのプロジェクトでありながら同時に自分の人格形成をも行っているのかもしれません。
※岩��宙平(1987年 東京生まれ) 桐朋学園女子高等学校ヴァイオリン科を経て、チェコ国立プラハ音楽院指揮科、ヴァイオリン科および作曲科で学ぶ。さらにチェコ国立芸術アカデミー指揮科を卒業。作曲はイルジー・ゲムロット氏に、指揮はミリアム・二エムツォヴァー、ミロスラフ・コシュラー、ヒネク・ファルカチュ、トマーシュ・コウトニーク、レオシュ・スヴァーロフスキーらに師事した。
インタビュー 村上良太
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