参政党の大躍進で25年参院選は終わりました。ヨーロッパのメディアは日本に極右有力政党出現、と報じています。この後、この国の政治権力の一角に極右が居座るのか、今が頂点でやがて溶けてしまうのか、評価は二分していていますが、こういう政治勢力があっという間に肥大化することの気持ち悪さは拭えません。(大野和興)
参政党の主張には天皇制国家復帰や治安維持法肯定、公務員の思想取り締まりの強化、スパイ防止法制定といったことが根幹に盛り込まれています。大正デモクラシーからファシズム国家へ、あっという間に変貌したこの国の歴史をたどり、「参政党はどうなる」という疑問への答えを探してみようと思います。
参政党をあっという間に参政党たらしめた言葉があります。「日本人ファースト」という言葉です。選挙中に神谷という党代表によって叫ばれ、選挙民の心をつかみました。日本に住む外国人はさまざまな制度、補助金で優遇されているにもかかわらず、この国の治安悪化を引き起こしているという、この政党が発するデマと抱き合わせで、日本国民の高評価を得たのです。
ここで考えたいのは、参政党が何故こんなことをいったかではなく、なぜこうした言説が日本国民に刺さったのか、ということです。 言葉の吟味から始めます。「日本ファースト」ではなく「日本人ファースト」です。よくトランプを真似たといわれますが、トランプがいっているのは「USAファースト」、つまりアメリカファーストで、アメリカ人ファーストではありません。
「人」という1字が入るだけですが、この違いは大きい。トランプは近代国民国家としてのアメリカファーストをいっているのに対し、参政党は血筋、あるいは人種、民族としての「日本人」ファーストを叫んでいるのです。それほど歴史を振り返らなくても、現代史の中で、そうした特定人種・民族を優越人種とすることで何が生じたか、事例は豊富です。多くに人がすぐ思い浮かぶのは、アーリヤ人種を人種ヒエラルキーのトップにおき、ドイツ人こそがその典型であるとして、その純血性を守るためにユダヤ人、ロマ(ジプシー)などを排除し、絶滅させようと虐殺に及んだのがナチスです。
日本ではそれは関東大震災のとき、デマを信じた日本人が約6000人とも言われる朝鮮人を虐殺として顕在化しました。棍棒や刃物で虐殺に参加したのは、どこにでもいる近所のおじさんやおにいさん、つまり普通の日本人でした。「日本人ファースト」という参政党の言動は、その直接的な流れに沿う正当な後継と見ることができます。
では、参政党にとって「日本人」とはどういう存在か。いろいろ精査したのですが、なかなか回答が見つかりません。この党が公にしている「参政党憲法草案」という文書があります。ここで答えを見つけました。 同憲法草案の第5条(国民)という条項があります。以下です。
(国民) 第五条 国民の要件は、父または母が日本人であり、日本語を母国語とし、日本を大切にする心を有することを基準として、法律で定める。
いささか同義反復の趣がありますが、この条文によると、父または母が日本国籍をもち、日本語の環境のなかで育った(つまり日本の領土内で)子どもで、「日本を大切にする心」を持たないと国民と認めない、言い換えれば日本人ではない、ということになります。これが「日本人ファースト」の日本人です。ファーストがある以上、セカンドがありサードがあります。しかしこれは、この島国でしか通じない序列と差別の構造に過ぎない。
国境を越えて一歩外に出ると、日本人であることなどほとんどなんの意味もないことを誰もが感じる世界に、私たちは生きています。1980年代からアジアの農村取材で東アジア 、東南アジアにおりにふれ出かけました。当時、空港の着くと空港内は日本製家電や日本車の広告一色でした。90年代の入ると、それが少しづつ減り始め、代わりに韓国製品、中国製品が増えてきます。そして2000年代にはすっかり入れ替わってしまう。そしてこに10年、日本の1人あたりGDPはアジアの国々に次々と追い抜かれたいます。
だからこその「日本人ファースト」なのでしょうが、それを叫ば叫ぶほど空回りし、自分たちの仲間以外誰も相手にしてくれない。こうして「日本人ファースト」は狂気と暴力性を帯びてくることになります。 参政党街宣現場で「日本人ファースト」や外国人排斥を叫ぶ参政党の主張に同意できない旨の意思を示した市民に、「それでも日本人か」と詰め寄る参政党運動員がいること、彼らはしばしば暴力行為に及ぶことは、よく知られています。
何故、参政党員または参政党支持者という狭い枠内であるにせよ、「日本人ファースト」という言葉に日本人の一部が狂気のように反応し、挙句の果ては暴力沙汰にまで及ぶほど興奮したのか。その答えはまだ見つかりません。このままでは関東大震災の時の普通の生活者による朝鮮人虐殺が繰り返されることになりかねない。そんな危機感が心の底に重く沈殿しています。
答えのヒントでも見つけたいと、哲学者鶴見俊輔の『戦時期日本の精神史』を引っ張り出して読み直しているところです。
日刊ベリタ 参政党支持者による街頭での暴力行為がエスカレート 市民団体が緊急記者会見
http://www.nikkanberita.com/ed_write.cgi?id=202507172334124
のりこえねっと @norikoenet 【緊急記者会見】
参政党支持者によるヘイトと暴力行為のエスカレートに抗議します。 「お前、日本人か」から首絞めまで
日時:2025年7月18日(金)15時〜
https://youtube.com/live/STVOuag6-xQ?feature=share 参政党選挙街宣におけるヘイトによって扇動された支持者によるヘイト・暴力行為が看過できぬところまできました。カバンを引っ張って首を絞める、ぶつかって転倒させる、顔を異常に近づけて威嚇するなどの暴力行為にはじまり、足を踏んでぶつかりざまに「殺すぞ」と脅したり、体当たりしてガードレールに押し付けて言論活動を妨害したり、護身用フラッシュライトを浴びせるなどの嫌がらせ行為に至るまで多種多様です。そして、その際、必ずつけくらえられるのが、抗議している人に対する「お前、日本人か」といったヘイトスピーチです。 2025年の参議院選挙はさながら外国人排斥の競争になっており、誰が一番「外国人」を叩けるか、の勝ち抜き戦の様相を呈しています。そして、差別扇動に抗うものは「日本人ではない」あるいは「日本人の裏切り者」とされ、抗議者に対する暴力は一線を越えました。 すでに、被害者の何人かは警察に被害届を出し、受理されています。 排外主義の差別扇動が暴力に発展しているいま、外国人に対する差別、ヘイトスピーチをやめさせる活動を進めてきた「のりこねっと」は、いま、ここで、起きている被害をこれ以上拡大させないために、緊急の記者会見を行うものです。
そのほかSNSには参政党による暴力行為の証言や写真、動画がたくさんあります。
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