法務省は先週、5月23日で1年を迎えた「不法滞在者ゼロプラン」の強化策として、「不法滞在者ゼロプラン 強力推進パッケージ」を発表した。同省は「約6万8千人(令和8年1月1日現在)いる不法残留者数を確実に減少させていく観点から、先日公表したゼロプランに『摘発の強化』を新規施策として加える」とし、非正規滞在者の摘発や監視を強化する姿勢を示した。
これに対し、「難民支援協会」は22日、ゼロプランの強化策に反対する声明を公表した。声明では「本資料(強化策)では難民としての保護を求める難民申請という行為が、非正規滞在につながる否定的なものとして位置付けられている」と指摘。その上で、「ゼロプランは日本が加入する難民条約の精神に反し、国内で暮らす難民の安心を脅かすもの。その撤回を求め、強力推進に反対する」として、政府方針に危機感を示した。
声明全文は以下を参照。(難民支援協会HPより)
https://www.refugee.or.jp/report/2026/05/post-20798/
【難民の送還につながる入管庁「ゼロプラン」の「強力推進」に反対するコメント】
政府は2026年5月22日、「不法滞在者ゼロプラン 強力推進パッケージ」(以下、本資料)を発表しました。前年5月から進めている、いわゆる「不法滞在者ゼロプラン」の強化策として、一部の難民申請者に対する不認定につながる判断の迅速化や在留制限の厳格化が盛り込まれています。 本資料では難民としての保護を求める難民申請という行為が、非正規滞在につながる否定的なものとして位置付けられています。しかし、難民申請者の9割以上は申請時点で正規の在留資格を有しています。申請の結果として非正規滞在となる人はいますが、その要因を作っているのは日本政府の側です。 ゼロプランは日本が加入する難民条約の精神に反し、国内で暮らす難民の安心を脅かすものです。その撤回を求め、強力推進に反対する立場から、以下にコメントします。
1.難民申請者を非正規滞在の増減要因と位置付けるべきではない
本資料の「不法残留者数の増減要因(現状分析)」には、「※このほか難民認定申請中の者」との記述があります。難民申請者を非正規滞在の予備群と位置付ける政府の姿勢は実態をゆがめるものであり、看過できません。 日本では難民の認定基準が国際水準に比べて著しく厳しく、本来保護を必要としている人まで不認定とされている状況があります。このような方々は、たとえ非正規滞在になったとしても、出身国での迫害のおそれから、日本に留まらざるを得ません。このように、難民申請の結果として、一部の方が非正規滞在となる主な要因は、政府側の制度運用にあります。
2.難民審査の迅速化は不認定ではなく認定の促進で
入管庁は難民申請案件を、申請書の記載内容に基づいてAからDの4案件に振り分ける運用をしています。このうちB案件は、「難民条約上の迫害事由に明らかに該当しない事情を主張している」と判断された案件です。B案件になると、在留制限の対象として在留資格の変更や更新が認められず、非正規滞在となります。難民審査のための面接も実施されず、基本的に短期間で難民不認定とされます。 本来であれば、審査を迅速化する努力は、保護を必要とする人を速やかに難民認定することに向けられるべきです。一方、「難民に該当しない」という判断は、慎重に行う必要があります。 しかし、政府はゼロプランで、出身国情報などを踏まえてB案件を「類型化」し、実質的に振り分け数を増やすことで迅速化を図る運用を開始しました。本資料では、さらに「B案件の類型化の拡充による処理の促進」を重点施策に掲げています。B案件への振り分けの促進は、難民保護の悪化につながるものです(「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」への当会の意見書参照)。「B案件の類型化」の見直しと、拡充方針の撤回を求めます。 B案件への振り分けは例年、申請者の1%前後で推移してきましたが、「類型化」を導入した2025年には14.3%(1,615人)に急増しました。これまでは慎重に行われてきたB案件への振り分けが拙速かつ過度に行われる傾向が、今後ますます助長されることが懸念されるほか、以下のような制度運用上の課題もあります:
・「類型化」の具体的な内容が非公開 ・案件振り分けが適正に行われているか検証する仕組みがない ・振り分け結果は申請者に通知されず、不服を申し立てる機会もない
3.在留制限の厳格化ではなく生存権と尊厳を
本資料には、「在留制限の更なる厳格な運用を検討」と記載されています。現行制度でも、B案件に振り分けられた申請者は在留資格を付与されず、就労が認められず、医療へのアクセスも保障されないなど、生存権が脅かされる状況に陥ります。難民申請者の「尊厳ある生活水準」の否定につながる施策は難民条約の趣旨に逆行するものであり、運用の更なる厳格化には深刻な懸念があります。
4.AI活用が難民申請者の不利益につながることを懸念
政府は本資料で、難民審査手続きの迅速化に向けた「AIを含むデジタル技術の活用」や「難民DXによる処理の迅速化・効率化」を挙げています。審査の効率化が期待される一方で、難民かどうかの判断には、個別の事情を汲み取る経験と高度な専門知識が不可欠です 。本来は慎重に行われるべき難民不認定の判断がAIの活用により拙速に行われることを危惧します。「難民に該当しない」という判断が誤って行われた場合には、迫害や人権侵害など、取り返しのつかない事態を招きかねません。具体的には、以下のような懸念があります
・誤った判断に対する責任の所在が不明確になる ・出身国情報への、AIが生成した事実に基づかない情報(ハルシネーション)やインターネット上の誤情報の混入 ・個人情報の流出
5.国際法の趣旨に反する難民申請者の送還の停止を
政府は今回、難民申請者等を対象とする「護送官付き国費送還」の更なる推進も掲げています。これは迫害の危険がある国への難民の送還を禁止する国際法上の原則(ノン・ルフールマン原則)の趣旨に反する施策であり、撤回を求めます。 2024年6月10日に施行された改正入管法により、3回目以降の難民申請者等の送還が可能となりました(送還停止効の例外規定)。2024年に19人、ゼロプランが導入された2025年には59人の難民申請者が送還されました。現状の日本の難民認定制度には様々な課題があり、保護されるべき人が必ずしも保護されていません。実際に3回目以降の申請でも認定される事例が毎年のようにあるなか、難民申請中の人の送還を行うべきではありません。
6.「帰国説得」のための収容は不当
本資料は、一時的に収容を解かれた「仮放免」の状態が長期化している人などについて、「収容した上、帰国説得」を行う方針も示しています。恣意的な自由の剥奪は、国際人権法で禁止されています。国は法律が定める目的を逸して身体の拘束を行ってはならず、収容を行う場合でも、その目的は合理性、必要性などの要件を満たす必要があります。「帰国説得」を目的とした収容は、国際法上、到底容認されるものではありません。
7.さいごに:難民を適切に保護する制度の確立を
ゼロプランの「強力推進」を掲げる今回の政府方針は、難民保護の理念に反し、非人道的ともいえる内容です。進めるべきは、難民保護を中心に据えた法制度や手続きの確立です。難民審査に求められる高い専門性を有した機関の設置や、難民申請者にとって公正で透明性が確保された手続きが求められます。 難民認定は、人間の尊厳や基本的権利を回復できるものです。日本政府に対しては、その意義ある価値を共有し、日本に逃れてきた人たちに保護を提供できる制度の実現を期待します。 本資料を通じ、入管庁の施策において、難民申請者が排除されるべき外国人として位置づけられていることが明らかとなりました。制度の問題に目を向けることなく排除が進み、特定の人々の権利を制限してもよいとする考え方が広がることに、難民支援協会は強い危機感を持っています。排除の対象として遠ざけるのではなく、知ることを諦めず、想像することを手放さないでほしいと、社会に対して呼びかけていきます。
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